瑕疵担保責任から契約不適合責任へ【経済学部の学生が解説】
改正民法が2020年4月1日に、施行されました。
変更内容の一部として、瑕疵担保責任という概念が民法上で消え、今までのその部分を契約不適合責任というものでカバーする形となりました。
まず、以前に存在した瑕疵担保責任の内容を解説して、その後に、契約不適合責任について解説します。
参考になれば幸いです!
瑕疵担保責任の理解における前提知識
瑕疵担保責任という概念を理解する為に、必要となる用語の確認からです。
まず、売買契約をイメージして下さい。
その時、「何を売買するか」という点ですが、特定物と種類物という区別があります。
特定物とは?
特定物とは、何か一つに特定できる物のことを言います。個性に着目して考えています。
例えば、レオナルドダヴィンチが書いた「モナリザ」という絵画、とかです。
不動産などもこれに該当します。
ここでは、モナリザは本当は2枚あった?!などの議論は置いておきますね。
種類物とは?
種類物とは、何か一つに特定できないものです。替えがきくものですね。
種類と数量に着目して考えています。
「コカ・コーラのペットボトル1本」とかがこれに該当します。大量に生産されている新車とかもこれです。
瑕疵担保責任とは?
種類物の売買契約の場合は、注文して受け渡された品物に瑕疵があった場合、「これちょっ不良品だったので、ちゃんとしたのを下さい」と言うことができますが、特定物の売買契約の場合は、この様に瑕疵があったとしても、欲しいと言われた、その特定物を引き渡したのだから、後から瑕疵を発見した場合でも、売主は責任を果たしたと言えるので、買主のリスクが大きいです。(特定物ドグマと呼ばれています。)
これでは買主の負担が大きいので、特定物の売買契約の時にだけは、新しく作った別の法律を適用してバランスをとっています。また、この解釈は、法定責任説と呼ばれ、契約責任説と対立していたんですが、民法改正で契約責任説が勝利しました。
この場合の瑕疵は、取引の目的を考慮し、その時の社会通念と照らし合わせて客観的に考えられるものとされていました。「これは、欠陥だよね~」と一般的に認識されるものです。
そして上記の目的で作られた法律が、
というものです。
瑕疵担保責任についてもう少し詳しく解説
「特定物」の売買契約の後に、「隠れた瑕疵」が発見された場合、買主は、「損害賠償請請求」と「契約解除」、例外的に「代金減額請求」この三つができました。
数量が足りない場合に限って「代金減額請求」を行うことができました。
損害賠償請求は、「損害が発生したので、その分のお金払ってね!」というものです。この時、請求できるのは信頼利益に限られていました。信頼利益の意味の説明は、次に記述しています。そして、この損害賠償は売主に責めに帰すべき事由がなくても請求できました。
契約解除は、その名の通り、契約を解除できます。なので、特定物を返す代わりに支払ったお金を返してもらえます。
代金減額請求は「安くしてね!」というやつです。
ここで、注目してほしいのは、「隠れた瑕疵」である必要があります。なので争点は、知っていたか知らなかったかにありました。
そして瑕疵の解釈は、契約書の内容はもちろん、取引の目的などを考慮に入れて考えて一般的に有すべき品質などを有していない状況のことを指しました。なので、今までは客観的に考えられていたと言えます。
また、売主が責任を負う期間ですが、「買主が瑕疵を知ってから1年以内に権利行使しなければならない」とされていました。
信頼利益とは
信頼利益とは、成立した契約が有効に成立していると信じたために、被った損害のことです。
契約を結ぶために目的地までかかった交通費などです。
契約不適合責任とは?
そして、今で長々と瑕疵担保責任について記述してきたのですが、この瑕疵担保責任という概念は民法上から消されました。条文からも瑕疵という文言は無くなり、ここをこれから記述していく、契約不適合責任というものでカバーされるように民法が改正されました。
まず、凄く大雑把に書くと、普通の売買契約に適用されてる、契約書の内容と違った場合に、債務不履行責任を負うというものでカバーすることになった、という感じです。
瑕疵担保責任が無くなった理由
まず、以前の民法では、「瑕疵」とされるのは、取引の目的を考慮に入れてその時の社会通念と照らし合わせて客観的に考えられるものでした。さらに、「隠れた瑕疵」に限定されていました。
これでは、争点が隠れているかどうかになってしまうので、それなら、契約書に書いてあることは知っていたことで、契約書に書いてないことは知らなかったことにすれば、話は早いので、双方が理解しやすく使いやすくなりました。
それと、日本で不動産などの売買契約をするのは、海外の方々もいるので、国際的な基準に合わせるためという理由もあります。
また、単純に「瑕疵」という言葉は一般的にあまり使われない言葉であるので、みんなが理解しやすい条文にするためにも、「瑕疵」という文言は民法上に無くなりました。
契約不適合責任の内容を詳しく
まず、民法の条文を引用します。
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。民法(明治二十九年法律第八十九号)
上記のように、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」売主は契約不適合責任を負います。
つまり、以前の民法の「隠れた瑕疵」ではなく、「契約の内容に適合しないもの」となりました。
なので、不動産の売買契約の場合、例えば、雨漏りについて契約書には書いていないが、買主がそれを知って契約していたとしても、契約書に書いていなければ、契約不適合責任を追及することができます。なので今まで以上に、契約書にその不動産の状況についてしっかり書く必要があります。
そして、旧民法では、買主が売主に請求できる権利は、「損害賠償請請求」と「契約解除」、例外的に「代金減額請求」この三つができました。
ですが、改正民法では、「損害賠償請求」「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」の5つが可能です。
また、売主が責任を負う期間ですが、買主が契約不適合を知ってから1年以内にそれを通知することで足りる」とされています。なので、少し期限が延長されたと言えます。
また、数量が足りない場合、売主に悪意または重過失がある場合は、この期間は設けられていません。ですが別の法律での時効もあるので、どちらにせよ早めに考えて適切な対応をとった方がいいと思います。
損害賠償請求
損害賠償請求をすることができます。そして、損害賠償請求ができる範囲は、信頼利益に限らず履行利益も可能です。
また、買主に責めに帰すべき事由がある場合は、損害賠償請求はできません。
履行利益とは
履行利益とは、契約内容がしっかり履行されていた場合に買主が得られていたでろう利益分になります。
例えば、転売目的で購入していた場合、転売をしていれば得られていたでろう利益分になります。
追完請求
契約不適合がある場合、買主は売主にたいして、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しを請求できます。
そして、これに売主が対応しない場合、もしくはできない場合は、「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」ができます。
なので、これがメインとなります。そして、追完請求に応じない場合、契約解除ができるので、この追完請求は強い権利です。
また、旧民法では、契約解除できる条件が、取引の目的を達成できない場合に限られていましたが、改正民法では、それに限らず追完請求が通らなかった場合にできます。
また、買主に責めに帰すべき事由がある場合は、追完請求はできません。
代金減額請求
これは、契約が成立したことを前提として、「当初の契約内容より、不備あったから代金減額してね!」というものです。
上記のミスを防ぐために、個人間の不動産の売買契約では、契約書で代金減額請求はできなくするのが主流です。相手が不動産会社など、専門の方々の場合は、代金減額請求もできる契約書になってる場合多いです。
また、買主に責めに帰すべき事由がある場合は、代金減額請求はできません。
催告解除
追完請求をしても応じてもらえない場合、催告解除ができます。催告をして、契約を解除するというものです。契約を解除した場合は、引き受けた物件など、取引した物を返して、その代わりに代金を返してもらえます。条文を引用します。
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。民法(明治二十九年法律第八十九号)
条文を実際に読むことも面白いと思うので、載せておきますね。
またこれも、買主に責めに帰すべき事由がある場合は、催告解除はできません。
無催告解除
これは、追完請求をしなくても、できます。ですが条件として、追完しようとしても取引の目的を達成できない場合や、売主があからさまに追完請求に応じない旨を表している場合にすることができます。今回も条文を引用します。
第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。民法(明治二十九年法律第八十九号)
法律の条文は、引用のとこのリンクから飛べます。全文を読んでみるのも時間はかかりますが、面白いかもしれません。
他の法律での制限
上でもちらっと書きましたが、民法の契約不適合責任は任意規定であるので、契約者同士が合意であれば、特約は有効です。
任意規定は、契約者同士がその項目について、契約書に書いていない場合に有効であるので、「1年以内に通知」と期限が民法で規定されていても、「3ヵ月以内に通知」という特約を入れて契約書を作り、双方が合意すれば、それは有効です。
それと反対に、「強行法規」というものもあります。それは、契約者同士が合意しても、それは無効になるというものです。双方が合意しても、それを打ち消す優先度が高いルールです。
また、民法以外の法律の強行法規で契約不適合責任が制限されているので、それを紹介します。
宅地建物取引業法での規制
売主が宅地建物取引業者の場合は、売主と買主に知識の差が出てしまうので、買主が不当に不利にならないように、民法の規定よりも、買主が不利になるような条件で契約を結ぶことは、ものによっては、できません。仮に結んだとしても、それは無効です。
契約不適合を知ってから通知を1年以内にしなければならないと「民法」で規定されていますが、宅地建物取引業者が売主となる場合には「宅地建物取引業法」によりこの期間を短縮することができません。
第四十条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)
なので、宅地建物取引業者だからといって、信じ切らずに、契約書に不備がないか確認してみて下さい。契約書に堂々と書かれていると、疑わず受け入れてしまうかもしれませんが、よく調べれば無効であるものもあるので、法律をある程度知っておくのがオススメです。
消費者契約法での規制
これは感覚的にもそうかもしれませんが、事業者と消費者の間での契約の場合に、損害賠償請求を全部免除するような特約は無効です。
なので、損害賠償請求について一切の責任を負いませんと、契約書に書いてあったとしても、そこは無効です。
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項消費者契約法(平成十二年法律第六十一号
法的根拠になる部分なので、覚えておいてもいいかもしれませんね。
品確法での規制
新築住宅の売買契約では、契約不適合について、最低でも10年間、責任を負います。品確法とは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の略称です。今回も条文を引用します。
第九十五条 新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から十年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕か疵しについて、民法第四百十五条、第五百四十一条、第五百四十二条、第五百六十二条及び第五百六十三条に規定する担保の責任を負う。住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成十一年法律第八十一号)
新築はとても値段が高く、中古になるとガクッと低くなる理由のひとつが、ここにあるのかもしれませんね。
インスペクションについて
不動産についての話ですが、契約書に書いていないと、損害賠償請求や追完請求などを受けるので、契約書を作成する段階で、その物件について、細かく状況を把握する必要があります。それを怠ると、後から請求を受けてしまいます。
ですが、不動産の売主が、それを自分で把握するのは難しい部分もあるかと思います。なので、一般的にはインスペクションを利用する場合が多いです。
インスペクションとは、専門の業者さんに、物件の業者さんに調査してもらうことをいいます。
そうすることで売買契約の前に、物件の状況を把握した上で、より正確な状況を説明する契約書の作成ができます。
まとめ
最後に契約不適合責任についてまとめます。
・売買契約においては、特定物、不特定物に限らず適用される。
・「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」売主は契約不適合責任を負う。なので、契約書に引き渡すものの状態を細かく書く必要がある。
・買主ができることは、「損害賠償請求」「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」の5つ。
・買主に責めに帰すべき事由がある場合は上記の5つはできない。
・まず、追完請求をしてそれに応じられない場合のみ、「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」の3つができる。
最後まで読んで頂きありがとうございます。参考になれば幸いです。ありがとうございました!